女子サッカー界のパイオニア小林克己さんが歩んだ30年|おおつヴィクトリーズ

今年オーストラリアとニュージーランドで開催された女子ワールドカップ。準々決勝敗退となったが、なでしこジャパンは強豪国スペインを4-0で崩すなど快進撃を見せ、世界から称賛されたのは記憶に新しい。

今回のなでしこジャパンには残念ながら滋賀県出身の選手はいなかったことから必要以上に注目はしていなかったが、X(旧Twitter)でなでしこジャパンのメンバーに関する話題を何度もポストしているアカウントに目がいった。

そのアカウントはおおつヴィクトリーズ。大津市を拠点に長年活動している女子サッカークラブで、調べてみると30年もの歴史があった。

県内のクラブチームで30年以上の期間、活動しているのはセゾンFCぐらいか。歴史あるこのクラブに興味が湧いたので、おおつヴィクトリーズの小林代表の基を訪問し、チームについて滋賀県の女子サッカーの状況等について話を伺った。

目次

クラブ概要

 キッズから大人まであらゆるカテゴリーの選手が在籍する女子サッカークラブ。女子サッカーの裾野拡大のための活動も精力的に行っている。

【練習場所】大津市立皇子が丘公園
【練習時間】毎週月曜日・水曜日の19時から
【指導体制】監督:小林克己,コーチ:瀧川陽
【主なOG】林穂之香,西中麻穂,前川美紀ほか多数

滋賀の女子サッカーを支えて30年。おおつヴィクトリーズとは

ーお時間いただきありがとうございます。早速ですがヴィクトリーズについて教えてください。

(小林代表)おおつヴィクトリーズは県内最古の女子サッカークラブです。U-12スクール、U-15、U-18・トップ(社会人)のカテゴリーで30名が所属しています。今年のU-15は人数の関係で栗東FC LIBLOさんと合同でリーグを戦っていました。また高校生と社会人のチームは、関西女子リーグを主戦場にしています。

ー練習は同じグラウンド?

スクールもU-15以上も同じグラウンドでやっていますが、練習メニューは異なります。練習は毎月のテーマを決めて取り組みます。

ちなみに月曜日の練習はありがたいことに、セレッソ大阪ヤンマーレディースの選手が来てくれることもあります。月曜日はセレッソがオフなんで。

ーそれは凄いですね!OGはキーパーの西中選手でしたか?

そうですね。OGには西中麻穂(C大阪ヤンマーレディース)の他に、なでしこジャパンで活躍している林穂之香選手(ウエストハム・ユナイテッドFC)がいます。林選手は小学生の時にチームに参加してくれていました。

ちなみに2011年に林選手が参加した全国大会(U-12カテゴリーの大会)で優勝しました。

ーちなみに以前は元Jリーガーの中井省吾さん(野洲高校-柏レイソル)がコーチをされていたのですか?

手伝ってくれていましたね。ちなみに今グラウンドで指導にあたっているのは瀧川陽です。野洲高校が全国優勝した時のメンバーです。瀧川君は息子とチームメイトだったので今手伝ってくれています。

ーなかなか豪華ですね。指導は瀧川さんと小林代表の2名体制ですか。

基本的にはそうですね。あとは常時ではないですがコーチは3名います。また日によってはOGが来て見てくれています。

おおつヴィクトリーズの成り立ちと小林代表の素顔

小林さん
ー先ほど全国大会の優勝という話があったのですが。おおつヴィクトリーズは全国優勝しているのですか?

2005年から2011年まで2月にJヴィレッジ(福島県)で「Jヴィレッジなでしこカップ」というU-12の全国大会が開催されていました。その最後の大会で優勝しています。

2012年以降は東日本大震災の影響で大会は開催されませんでしたが、替わりの大会を滋賀県で開催し、それ以降毎年やっています。

ー希望が丘公園で開催されている大会ですか?

そうですね。前年の全国大会に出ていた全てのチームにお声をかけ、2012年2月に「びわ湖カップ全国なでしこサッカー大会」を開催しました。趣旨に賛同いただいた32チームが野洲の希望が丘に集まってくれました。

ちなみにこの大会は東日本大震災で甚大な被害を受けた東北を応援するため、福島、宮城、岩手には参加費を助成し無償で来ていただきました。

ー大規模ですね。小林代表が動かれていたんですね。

はい。年度途中の話だったので希望が丘文化公園には予算がなくスムーズに事が運びませんでした(希望が丘文化公園は県営施設であり、当該年の予算は前年度に固まる)ので、当時の公園長にプレゼンにいきましたよ。

希望が丘文化公園とサッカー協会に頑張っていただき、何とか開催できました。他には裏全国大会というのも滋賀県でやっているんですよ。

ー裏全国大会?

「忍びの里 U-15 くノ一サッカー交流大会」という大会で夏に甲賀市で開催しています。これはhummelに支援いただきhummel CUPとも言っています。今年は北海道から沖縄までの20チームが参加しました。

ーU-12・U-15と滋賀には全国規模の大会があるんですね。

そうですね。滋賀はトップレベルの試合が見られる良い環境です。

ーヴィクトリーズに話を戻しますが2022年にクラブ30周年を迎えられた。そもそもどういう経緯でできたクラブですか?

30年前に大津女子という小学生のクラブチームがあり、自分の娘がそのチームに入ってたのですが、ある時お誘いがあって自分が監督として関わっていました。

その後、大津女子の中学年代のチームを作ろうということになって、立ち上げたチームが今のおおつヴィクトリーズです。

30周年パーティーの様子
ー小林代表はそれまでずっと指導してこられていたのでしょうか

大津女子の監督のお話をいただいた30代半ばまでは現役でプレーしていましたね。

ーずっとプレーをされてきた中、急遽女子サッカーチームの監督になられたわけですが当初スムーズに指導できましたか

(プレーすることと)指導することのギャップは感じましたね。

ー小林代表はどこでプレーしていたのでしょうかか?

高校は比叡山高校です。有難いことに国体にも出させてもらったことがあります。卒業後は蹴友クラブという大津市リーグに所属する社会人チームでプレーしていました。

ーではお子さんがサッカーをしてなかったらヴィクトリーズもなかったわけですか。

そうなんです。スポ小入りたいと聞いて他のスポーツかと思ったらまさかのサッカーでした。今思うと、休日もサッカーの試合ばっかり連れて行っていたので完全に親の影響ですね。

ー今はお勤めされているのですか?

引退しました。今はアルバイト的な仕事と、今年の夏に立ち上げた法人、一般社団法人おおつヴィクトリーズの仕事をしています。

ーなぜこのタイミングで法人化を

法人立ち上げの理由としては、女子サッカーの環境を良くしたいという思いからです。

地域とヴィクトリーズのコミュニティを保ちつつ女子サッカーの環境を良くしたいからです。後は地域への恩返しです。30年間続けられたのも地域のおかげなので。

ーますます忙しくなりそうですね。ちなみにこの30年間は謂わばボランティアとして活動されてきたわけですか。

そうですね。現役の時は平日日中は仕事、夜と休日はサッカーという生活でした。これまでやれてこれたのは家族の理解があったからこそです。

ーお父さんがサッカー漬けでしたら子供もサッカーの道に行きそうですね

家庭環境は大きいですね。幼少期にサッカーに触れる機会が多ければ自然とサッカーを選ぶようになります。なでしこ広場に来ている子供達の保護者のサッカー経験率は高いですね。

この日グラウンドで開かれていた”なでしこ広場”

ーグラウンドに小さいお子さんがたくさんいますが、何をされているのでしょうか

今日は「なでしこ広場」というサッカー教室を開いています。女子サッカーの普及活動の一環として、年少から小学校6年生までを対象に月1回、皇子が丘公園で開催しています。ボールを使った練習のほか、身体を動かすことの楽しさを知ってもらうようなメニューもあります。

なでしこ広場の終了後の一幕。ヴィクトリーズの選手も混じっていた。
ーヴィクトリーズの練習着を着ている方が教えていますが、選手がコーチをしているのですか

低学年(U-8)の子供はヴィクトリーズの選手が指導しています。今日は中学生が教えていますね。うちの子たちはみんなU8のキッズのライセンス(JFA認定)を持っているんです。社会人もとってもらいました。なお、中学年以上はT&S研究所からコーチを派遣いただいています。

ー選手がコーチをするのはどのような意図があるのでしょうか

選手がコーチをするのはクラブの指示ではなく選手が自主的に行っています。人に教えることは選手自身の人間形成にも意義があると考えています。

女子サッカーとヴィクトリーズの将来像

ー30年間指導されてきて、今の女子サッカーの現状はどのように思われますか

全体的なレベルは上がってはいると思います。けど基礎のレベル止める・蹴るが充分でない子も増えていると感じますね。

ーそれはなぜなのでしょうか?

昔は小学年代でも女子のチームが多くあり、女子のペースでしっかりと練習できていましたが、今は男女混ざって練習するのが定着しています。そのため個々のペースに合わせてしっかりと基礎練習ができていないように感じますね。

ー女子のプレーする環境は良くなっているのではないのでしょうか

今の子どもは、練習試合でも芝生でプレーできるので環境は良くなったと思います。そんな環境の中で技術を成長させるチャンスは多くあります。

ーチーム数は減っているのでしょうか

30年前から比べて県内のチームは減っていますね。昔は女子単独のチームで県内に9チームぐらいありました。女子サッカーのチームが県内にあることをもっと知っていただく必要がありますね。JFAは2030年までに女子サッカー人口を20万人に増やす目標を掲げているのでもっと頑張らなければなりません。(22年度末で約5万人)

ーどうすれば競技人口が増えると思いますか?

トップレベルの選手が地域に戻って育成・普及に携わる必要があります。今年のW杯で少し盛り上がりましたが、一過性のものにしないためには、地域への貢献が不可欠かと思います。

ー最後に今後の目標をお聞かせください。

プロを輩出するという目標は達成できましたが、引き続き上を目指せる選手を育てたいと思います。上というのはプロになるだけではなくしっかりとした志を持つということです。あとは、地域に愛されるようなクラブになっていきたいです。

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